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「宇宙飛行士をめざすタレント」として、 科学の魅力を発信したい

テレビやラジオで活躍中の理系タレント・黒田有彩さん。中学生のときに見学に訪れたアメリカ航空宇宙局(NASA)で宇宙の魅力に夢中になり、大学時代は「重力波」の研究に取り組んでいました。芸能界で活躍している今も宇宙飛行士をめざしているという黒田さんにとって、理工系の学びの魅力とは?
これからの夢や理工ガールたちへのメッセージを聞きました。

中学時代にNASAを訪問
宇宙の魅力に夢中になった

2016年、アメリカ・ヒューストンのNASAへ見学に行ったときの写真。

 小さいころから、身のまわりのさまざまな“不思議”に興味がありました。「黒ペンと赤ペンはなんで色が違うの?」とか、「クーラーから音が鳴っているのはどうして?」とか。些細なことでも「どうして?なんで?」と不思議に思う気持ちが、私の理系の学びの原点でした。夏休みの自由研究も、一生懸命取り組んだことで、理科の知識がより広く深くなったように思います。
 そして中学生のころ、私の運命を大きく変える出来事が起こりました。「21世紀を幸せにする科学作文」のコンクールで最優秀賞を受賞し、その副賞がなんとNASAへの見学ツアー。マーシャル宇宙飛行センターで、宇宙飛行士の訓練にも使われていた回転椅子に乗ったり、宇宙開発の歴史に関する展示を見たりとなかなか味わえない貴重な体験をして、「宇宙ってスゴイ!」と感動。それ以来、宇宙のとりこになってしまいました。
 高校では、宇宙のことを学ぶには不可欠な物理学を選択。でも、目の前の公式を覚えることに必死で、本質的なところを理解するまでには到底辿り着いていませんでした。勉強では他の科目も消化しきれていないものが山積み。勉強が嫌になっている時期でした。その一方で、放課後はダンス部の活動に全力投球。練習を積んでステージに立ち、お客さんから拍手をもらうことの楽しさに夢中になっていました。

 自分はどうやって生きていけばいいんだろうと悩んでいた高校2年生、最後の三者面談。進路希望調査の紙に「芸能界」と書いて提出しました。
先生も両親も、私の初めてのカミングアウトに顔面蒼白(笑)。しかし、担任の先生から「大学で自分の武器を見つけてから芸能界に挑戦しても遅くないんじゃないかな」とアドバイスをもらい、大学へ進学することに決めました。そして、進学するなら自分の大好きな「宇宙」について学びたいと思い、宇宙の「どうして?」を学べる物理学科を選びました。
 進学したお茶の水女子大学理学部物理学科では古典力学や量子力学など広く物理を学び、4年次には1年間、国立天文台の重力波プロジェクト推進室での共同研究に取り組みました。「重力波」とは、運動によって発生した時空のゆがみが波動となり、光速で伝播していく現象のこと。アルベルト・アインシュタインが提唱して以来100年以上も発見されず「アインシュタインの最後の宿題」とも呼ばれたこの現象は、宇宙のはじまりとされるビッグバン理論にも深く関わっているものです。学部生だけでなく、院生、ドクター、ポスドク……と、いろんな方と研究するのも刺激になりました。
 私が研究をしていたころに「30年以内には観測される」と予想されていた重力波は、2016年の2月にアメリカで初めて観測されました。物理学の歴史に残る大きな出来事に、私もほんのわずかながら関われたような気がして、嬉しかったですね。

科学の魅力を伝える仕事で
タレントとして宇宙をめざす

 実は大学3年生のとき、もうひとつ転機となる出来事がありました。憧れのJAXAで10年ぶりに宇宙飛行士の募集がかかったのです。大学の掲示板に貼り出された募集要項。そこには大学卒業以上、その上実務経験3年以上など、当時の私には満たせていない条件もたくさんありました。それでも「宇宙に行きたい!」という気持ちを伝えたいと思い、応募しました。もちろん結果はダメでしたが、改めて宇宙飛行士という職業について考えるきっかけになりました。
 大学卒業後は、いよいよ本格的に芸能界でタレントとしての活動を開始。テレビ番組やイベントなどの仕事をしていくうちに、だんだんと「理系タレント」としてお仕事をいただく機会が増えてきました。その中でも『NHK高校講座物理基礎』では物理学科出身ならではの知識を生かして番組の企画から関わりました。どうしたら興味を持ってもらえるか、視聴者と物理の架け橋になれるように工夫しました。
 そして、理系タレントの活動が増えてきたころ、2人目の日本人女性宇宙飛行士、山崎直子さんとお会いする機会がありました。そのときには宇宙に行くという夢を諦めかけていたのですが、山崎さんにかつて宇宙飛行士の試験に応募した話をしたところ、「これからの時代、黒田さんのような『伝える』仕事をしている人が宇宙に行くことで、より多くの方に宇宙の魅力が伝わると思います。だから、諦めないでください」と激励されました。実際に宇宙に行った憧れの人の言葉は、本当に心に染みるものでした。そして、私はもう一度「宇宙へ行く」という夢を追いかけようと決意したのです。現在私は、「宇宙飛行士をめざすタレント」。これからもタレントとして科学の学びの魅力を発信しながら、自分なりのやり方で、一歩ずつ「宇宙」をめざそうと思っています。

「当たり前」が「奇跡」に
変わる瞬間がある

タレント
黒田 有彩さん
KURODA Arisa

1987年、兵庫県神戸市出身。2011年、お茶の水女子大学理学部物理学科卒業。タレントとして宇宙の魅力を発信しながらJAXA宇宙飛行士の受験をめざす。放送大学『初歩からの宇宙の科学』『化学反応論』/FMヨコハマ『Tresen』/東書Eネット『黒田有彩の理科+わたしは=』/『宇宙女子』(集英社インターナショナル)ほかメディア出演多数。

 これから理工系の大学を志す高校生のみなさんには、どんなに些細なことでも「なんでだろう?」と考える好奇心を忘れないでほしいです。不思議に思ったことを一つひとつ地道に調べていくと、今まで当たり前だと思っていた現象が奇跡に変わる瞬間があります。ブラックボックスの中をキラキラした目で見られる、それが理工系の学問のいちばんの魅力だと感じます。私は物理学を通じて、あらゆる現象がシンプルな数式で表されることを知りました。この宇宙は美しく、愛おしい。サイエンスの視点で切り取ると、私たちの生きる世界がより豊かなものになるんです。
 夢として語れる立派なものでなくてもいいと思います。まずは何か好きなもの、夢中になれるものを自分の中に見つけてみてください。それを、周りの人に言ってみたり、大切に育てたりしながら、みなさんだけにしか歩めない道を歩いてみてください。応援しています!

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