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見えない場所で社会を支える「電気電子工学」の技術

スマートフォンの電子部品から家電製品、ソーラー発電システムまで、電気電子工学の技術は、幅広い分野で役立てられています。見えないところで社会を支える縁の下の力持ち、「電気電子工学」の最前線をご紹介しましょう。

 

2016年11月、福井工業大学が取り組む「ふくいPHOENIXプロジェクト」が文部科学省の私立大学研究ブランディング事業に採択されました。これは、「宇宙」をテーマに地域活性化をめざすというユニークなプログラム。ここでも電気電子工学の知識が大いに役立っているといいます。

福井工業大学 工学部 電気電子工学科

中城 智之 教授
NAKAJO Tomoyuki

東北大学 大学院 理学研究科 地球物理学専攻 博士課程 単位取得満期退学。博士(理学)。専門は、宇宙観測、衛星データ通信ほか。

「宇宙」をテーマに
地域活性化に貢献する

「福井県って面白いところなんだ……という特徴の種をまきたいと思ったんです。そこで、『宇宙』というテーマに目をつけました」
 そう語るのは、福井工業大学工学部電気電子工学科の中城智之教授。もともと宇宙物理学が専門で、現在は衛星とのデータ通信や宇宙観測の技術を研究しています。
 福井県では、県内企業を中心とした福井県民衛星技術研究組合が設立され、2019年に超小型衛星の打ち上げを計画中。福井駅前に宇宙をテーマにした大型施設『セーレンプラネット』が誕生したこともあり、地元の期待も高まっています。そこで、福井工業大学でも「宇宙」をテーマに地域活性化に貢献できないかと考えた中城先生は、大学ならではの1つのアイデアにたどり着きました。
 「福井工業大学のあわらキャンパスには、2000年に設置された北陸エリア最大のパラボラアンテナがあります。衛星利用には、データを受信する地上局が不可欠です。大きなアンテナほど高速のデータ通信が可能になるので、衛星データ利用の実用化にはもってこいの環境です。私は、この直径10mのパラボラアンテナを福井県の大きな財産だと考え、さまざまな活用法を模索しています」

人工衛星の観測データを
イネの高品質化に役立てる

 「ふくいPHOENIXプロジェクト」には「衛星利用研究の推進」「宇宙をテーマにした地域のイメージアップ」「宇宙関連産業の育成」という3つの研究軸があります。ここで、中城先生が主に取り組むのは、「地球観測データを活用した精密農業」と「観光ブランディング」です。
 人工衛星で農業?と意外に思うかもしれませんが、福井工業大学が製作している衛星は超小型ながら、搭載するカメラの解像度は1ピクセルが20×20㎡という精密さ。NASAが打ち上げた地球観測衛星「ランドサット」とほぼ同じ解像度なのだとか。
 「これは田んぼのイネの葉の色などから生育状況を分析できるレベル。衛星からのデータをもとに肥料や水量を管理し、イネの高品質化や生産管理の効率化につなげることができるでしょう。衛星による地球観測は森林や海洋、災害の情報収集、街で起きる事象の把握など、幅広い分野に活用できます。その特性を農業に応用すれば、農家のサポートや福井県のブランド農産品の質の向上に貢献できると考えたのです」
 「宇宙」と「地域活性化」のつながりは少しわかってきたものの、ここで電気電子工学の知識がどのように役立つのでしょう?中城先生はこう説明してくれました。
 「電気電子工学の分野では、主に『通信』の技術が役立っています。詳しくいうと衛星リモートセンシングと呼ばれる観測の手法です。これは衛星との高速データ通信が可能にしてくれるもの。人工衛星というと航空宇宙工学の研究分野と考えられがちですが、小さな衛星そのものだけでなく、通信やデータ解析の技術を用いたシステム全体でやっと価値あるものになるのです」

「人工衛星の利用にデータ通信の先端技術は不可欠です!」

福井工業大学あわらキャンパス内の宇宙通信受信システムの機器。衛星から福井県内の各種データを細かく入手できる

データが証明する福井県の
「日本で最も美しい星空」

 電気電子工学の技術は、家電製品はもちろん、スマートフォンの電子部品やソーラー発電システムなど幅広い分野で役立てられています。しかし、既存の技術を更新していくだけでは、未来は明るくないというのが中城先生の考え方。電気電子工学の技術を、宇宙、さらには地域活性化に生かしてしまおうという発想力も大切だといいます。これは、「ふくいPHOENIXプロジェクト」で中城先生が取り組むもう1つのテーマである「観光ブランディング」で、よりいっそう求められる要素です。
 「観光ブランディングの事業では、私たちが最も身近に宇宙を体感できる『星空』をテーマに選びました。プロジェクトでは衛星データと地上での夜空の暗さ計測を組み合わせ、星空の美しさの根拠を数値化することに役立てることで、福井県に『日本で最も美しい星空』という付加価値を見出そうとしています。数値で美しさが伝えられると県内各地の星空名所のマップがつくれます。これまで知られていなかった名所を発見できるかもしれません。
観光客が知りたい『どこに行くといいのか』『いつ行くといいのか』を具体的に発信することもできるでしょう」
 夜空の暗さという地上では全体像をつかみにくい魅力も、宇宙からのデータと結合すれば、福井県の魅力として目に見える形で伝えることができます。それがほかの地域資源とリンクしていけば、“夜空で街おこし”という新しいモデルケース誕生も夢ではないかもしれません。
 現在、「ふくいPHOENIXプロジェクト」には電気電子工学科の学生が約15名参加していて、衛星製作・夜空の暗さ観測・イネの観測・地上局の4つのグループで研究を進めています。宇宙から届く観測データを有効に活用するポイントは、「地域を知ること」だと中城先生。どんなに有益なデータも、活用方法のピントがずれてしまっては生かせません。そのためには地域にどのような問題があるのかを調べることが重要だといいます。
 「地域を知り、何に役立てるのかを突き詰めるほど全体がクリアに見え、データの利用価値は高くなります。宇宙の視点を持ちつつ、地域を深く理解していくことが、福井県と宇宙を近づける鍵だといえるでしょう」

文理融合の感性と技術応用の
アイデアが未来を切り拓く!

 電気電子工学は、もともと応用先が幅広い研究分野。卒業生たちは、家電、自然エネルギー、通信インフラ、宇宙開発など、さまざまな分野で活躍しています。今後は、さらに情報工学との融合も進むでしょう。ソフトウェアの開発だけでなく、サーバやネットワークといったハード面の知識にも詳しくなれる点も電気電子工学を学ぶメリットだといえます。中城先生は、これからの技術者像についてこう語ります。
 「私は、文理融合の感性がますます求められると考えています。技術のための技術ではなく、『社会のどこで使うのか』を技術者が考えられるようになるべきだと思います。電子回路をつくるのも大事ですが、なんでつくるのか?これによって街をどう変えられるのか?と考えられる技術者になってほしいですね」
 求められるのは、幅広い視野と技術を積極的に応用しようというアイデア。そこに女性ならではの感性もきっと生かされるでしょう。電気電子工学を学んだ先に、まだ誰も知らないものづくりの進化形があるかもしれません!

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