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特集(PC用)

未来の高度情報化社会を支える世界初の新型トランジスタ

独自開発した新素材で世界で唯一の研究に邁進

N.Mさん

 世界初となる試み、「エキシトントランジスタの室温動作」の実現に向け、研究を進めています。トランジスタとは電気の流れをコントロールする部品。従来のものは、光通信時に光電変換が必要になるため、信号の遅延や、消費電力が大きくなることが問題でした。その点、新しい原理のエキシトントランジスタは、光信号を直接処理することができるため光電変換が不要になり、高速・低消費電力というメリットも。よく耳にするインターネットサービスの“ 光” という言葉の通り、世界が今、光配線方式へと向かっています。
 ただし、これまで研究されているエキシトントランジスタは125 ケルビン(≒摂氏マイナス148 度)という極低温の環境でしか動作しません。そのため、室温で動作する新材料の開発が不可欠でした。そこで、私たちは新素材ZION(ザイオン)を独自に開発。ZION とは亜鉛と酸素、インジウム、窒素の化合物です。再現性を含めて、ZION のベストの作製条件を模索しています。

高度情報化社会を支えるエンジニアをめざす

研究の息抜きに音楽を聴いてリラックス。
気持ちを落ち着ける時間は、研究に集中するためにも大切です。

 エキシトントランジスタの室温動作が実証できたら、インターネットに接続するための通信機器であるルーターに搭載することが目標です。室温で動作が可能になると、製品内に冷却機能が不要になるため、軽量化・薄型化することはもとより、内部構造がシンプルになることで製造コストも抑えられます。こういった将来性のある研究に携われていることを光栄に思います。
 博士課程修了後は、現在研究しているプラズマプロセス技術の分野で研究・開発職に就きたいと思っています。これまでに教わったことを社会に還元し、これからの高度情報化社会を支えていく技術者になりたいです。

ひとこと

プラズマ、半導体、トランジスタ……など一見難しい印象を受けるのが電気・電子系の分野。
しかし、実際はやってみないとわからない面白さがたくさんあります。何事も楽しむ気持ちで、未来の可能性を広げてほしいです。

理工ガールが活躍する研究室  システム情報科学府 電気電子工学専攻 プラズマ工学研究室

プラズマの応用分野は無限大。いわば「打ち出の小槌」です

白谷 正治
システム情報科学府
電気電子工学専攻 教授

九州大学大学院工学研究科電気工学専攻博士課程単位修得退学。工学博士。九州大学大学院システム情報科学研究院主幹教授、プラズマナノ界面工学センター長。専門分野はプラズマ工学。低温プラズマを用い、太陽電池などのデバイス製造法、二酸化炭素の資源化、植物の成長促進などを研究。

 本研究室のキーワードは「プラズマ」です。プラズマとは、固体、液体、気体に続く物質の第4 の状態。近年では生活家電などでよく耳にするようになった言葉です。自然界でいうと、太陽や雷も実はプラズマ。さらには、ペットボトルやコンタクトレンズ、カメラ……など私たち現代人は、プラズマを用いてつくられた多くの製品に囲まれて生活を送っています。プラズマには、大きく分けて高温プラズマ、熱プラズマ、低温プラズマの3 タイプがあります。私たちが研究に用いるのは、“触れるプラズマ”ともいわれる低温プラズマ。電子だけが著しく高温で、ガスやイオンの温度に関しては常温のため、プラスチックなど幅広い素材の加工に応用することができます。このように常温で通常は高温でしか生じない化学反応を起こせることが、低温プラズマの最大のメリットです。
 現在、低温プラズマは、太陽光発電に必要な太陽電池やパソコンに入っている半導体などさまざまな製品の作製に応用され、これらは本研究室においても核となる研究テーマです。さらに、2020 年代に火星衛星探査計画をしているJAXA (宇宙航空研究開発機構)と連携し、地球に戻るための復路のロケット燃料を火星上でつくる技術を研究中です。この研究では低温プラズマを用いて、火星の大気中の二酸化炭素を水素と反応させ、メタンを生成します。
 ほかに、地元九州の農家の方と協力し、プラズマを用いて農業生産性を向上する研究も行っています。現在、世界の人口は毎年約1 億人ずつ増えており、人口増に見合う食糧増産が世界の大きなミッションでもあります。種子に低温プラズマを3 分間照射すると成長期間が10% 短く、最終的な種子の収量も50%以上増えるという結果が出ており、今後の研究が期待されます。
 さらには、プラズマ照射溶液を使った新たながん治療や、低温プラズマ止血など、プラズマ技術が医療をも変えようとしています。そんな将来性を秘めたプラズマはいわば「打ち出の小槌」です。
 すべての研究は、小さな気づきから始まり、問題提起力、問題解決力によって発展してきたものばかりです。学生のみなさんには、研究を通して多角的に物事を見る力を身につけてもらい、その経験を社会や人間関係といったさまざまな場面で生かしてほしいと思います。


現在、M さんは二人1 チームで研究を実施。写真は、真空状態でZION を基板に成膜させる方法、スパッタリングの実験を行っている様子。


低温プラズマを農業に応用した実験の1 つ。種子にプラズマを照射したプルメリア(左)と、そうでないもの(右)の成長の差は歴然。

情報科学と電気電子工学が学べる学科・大学院

ヒト・ロボット共生空間Big Sensor Box では、さまざまなロボットによるサービス実験が行われています。

 九州大学工学部電気情報工学科、および大学院システム情報科学府・研究院は、情報科学分野と電気電子工学分野が1つになった全国的にも数少ない学科、大学院です。
 人工知能やIoT (Internet of Things)、ビッグデータ、スーパーコンピュータ、マーケットデザイン、次世代無線通信、電子デバイス、エレクトロニクス、嗅覚・味覚センサ、電力エネルギー、プラズマ、超電導など、計算機科学、情報工学から電気工学、電子工学まで幅広く学べます。
 たとえばロボット工学の研究室では、人と共存・共生するサービスロボットの実現をめざし、人とロボット、そしてそれを取り巻く環境の三者が、互いに影響を与え合いながら、ともに進化する「共進化社会」について研究しています。

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